今回は、潰瘍性大腸炎について説明します。
【潰瘍性大腸炎とは】
潰瘍性大腸炎とはどのような病気でしょうか。
血便が出たときに“血便”とネットで検索すると、大腸がん、大腸憩室出血、虚血性腸炎、痔などとともに血便の原因として記載されているのを目にしたことがあるかもしれません。潰瘍性大腸炎はクローン病とともに炎症性腸疾患に属する分類です。炎症性腸疾患とは、大腸や小腸に慢性的に炎症をひきおこす原因不明の疾患の総称です。
原因は一つではなく、遺伝、食べ物、腸内細菌、免疫異常などの要因が重なり合って発症する病気と考えられています。ただし、潰瘍性大腸炎を患っている方のお子さんが必ず潰瘍大腸炎を発症するという疾患ではありません。
【患者数の推移】
潰瘍性大腸炎の医療受給者証および登録者証交付件数は年々増加しています。
2007年に10万人を超えました。一見2014年をピークに減少しているようにみえますが、2015年1月以降に医療受給者証の認定基準が変更になり、軽症の場合に基準をクリアできなくなったことが要因です。実際には増加傾向にあります。
発症年齢は20~30歳代が多く、男性と女性で発症率に差はありません。
潰瘍性大腸炎そのもので死に至ることはなく、病気に罹患していない人と比較して、生存率に差はありません。
【症状】
潰瘍性大腸炎の主な症状は血便、下痢、しぶり腹です。腹痛を伴う場合もあります。粘膜が損傷されるため血便が出て、直腸粘膜の炎症刺激により便意が発生しても便が出ない(しぶり腹)の症状が出ます。また粘膜から浸出液が出て、水分が吸収されないため下痢になります。
重症化すると、発熱、体重減少などの症状が出ることがあります。どの病気にも言えることですが、潰瘍性大腸炎においても軽症の段階で治療を開始することが大切です。
【潰瘍性大腸炎の合併症】
潰瘍性大腸炎は、腸管におこる「腸管合併症」と腸管以外におこる「腸管外合併症」を伴うことがあります。
おもな腸管合併症は、「大量出血」「大腸穿孔(腸に穴があくこと)」「中毒性巨大結腸症(強い炎症で腸が膨らむこと)」などがあり、これらは緊急手術が必要になることがあります。また、大腸の炎症の範囲が広かったり、炎症が長期間持続する場合は、大腸がんになるリスクが高まります。よって、しっかり治療を続けて、炎症を抑えることは、大腸がん発生のリスクの低下につながるとされています。
大腸カメラは、潰瘍性大腸炎の炎症の状態を把握するためだけではなく、大腸がんを早期発見するためにも有用であるため、定期的な大腸カメラは経過観察に欠かせません。
おもな腸管外合併症は、「関節炎」「皮膚病変」「眼病変」などがあります。また胆石、腎結石なども挙げられます。
【診断】
診断は、一つの検査だけでは決め手に欠きます。
診断の流れとしては、臨床症状(血便、下痢など)、症状の経過などで潰瘍性大腸炎を疑った場合に、採血や内視鏡検査(大腸カメラ)を行います。炎症を認めた場合に、生検(組織を採取)を行います。採血、CTなども診断の参考になります。さらに、便や組織の培養検査で感染性腸炎などの潰瘍性大腸炎以外の疾患を除外する必要があります。
また、人間ドックや大腸がん検診で便潜血検査陽性と言われて大腸カメラを受けたら、潰瘍性大腸炎が原因だったということもあります。
【分類】
病変の範囲による分類
・直腸炎型:病変が直腸に限局している。
・左側大腸炎型:病変が脾彎曲部より肛門側に限局している。
・全大腸炎型病変:脾彎曲部を越えて口側に広がっている。
臨床経過による分類
・初回発作型:発作は1回のみ。
・再燃寛解型:症状が落ち着いたり(寛解)悪化したり(再燃)を繰り返す。
・慢性持続型:寛解に至らず、活動期が続く。
・急性劇症型:発症・再燃から急激に悪化する。
重症度による分類
排便回数、血便の程度、発熱の有無、頻脈、貧血の有無、赤沈(採血)の程度によって、軽症・中等症・重症・劇症に分類されます。
【潰瘍性大腸炎の病変部位】
潰瘍性大腸炎は、基本的に大腸壁の比較的浅い、粘膜層~粘膜下層までに炎症が起きます。基本的に直腸から奥の方に向かって連続的に炎症がおこります(例外あり)。また、病変は大腸に限局しています。
一方、同じ炎症性腸疾患のクローン病は、消化管全体に非連続性(飛び飛び)に炎症が起こります。つまり、口腔から肛門までどこでも起こります。また炎症が大腸壁の全体(全層)で起こるため、消化管に接する他の臓器にも影響を及ぼします。
【治療】
なぜ治療が必要なのでしょうか?
放置すると血便、下痢が続くだけでなく、それが悪化するおそれがあります。また病変が広がり炎症が続くと、大腸がんの発症率が高まります。よって、炎症を早期にコントロールして、寛解を維持することはとても大切なことなのです。
治療に関しては、詳細は省きますが、内服、坐剤、注腸、点滴、血球成分吸着除去療法などがあり、病変部位、重症度などにより治療法を決定します。
潰瘍性大腸炎の多くは、クリニックでも十分対応できます。しかし中には最初から、あるいは初期治療で効果がない場合などは専門病院に依頼する場合もあります。
潰瘍性大腸炎は完治するのでしょうか?
この疾患の原因が明らかにされておらず、完全に治す治療法はありません。この病気とどのように付き合っていくかを考えます。うまく付き合って、寛解を維持している方は多くおられます。
【日常生活】
ストレスや過労は、再燃のきっかけになることがあります。
しっかり安静と睡眠をとって疲れを残さないような自分なりの対処法を身につけることが大切です。スポーツに関しては、寛解期であれば制限はありませんが、過度な運動は控えて、疲れを残さないようにしましょう。
【食事】
一般的には低脂肪食・低残渣食(食物繊維の少ない食品)がすすめられていますが、寛解期であれば基本的に制限はありません。ただし、体調不良を来す食品があれば、それを控えた方がよいでしょう。もちろん暴飲暴食はさけてください。
特にアルコールや刺激の強い食品は、血便、下痢等の症状がある時に症状を悪化させることがあります。
【妊娠・出産】
潰瘍性大腸炎を患っている方も、妊娠・出産している方が多くいらっしゃいます。寛解を維持していれば、流産率、先天奇形の発生率は潰瘍性大腸炎に罹患していない人と比較して変わりありません。
~まとめ~
・潰瘍性大腸炎の患者数は増え続けています。
・特に若い人で血便が続く場合は、潰瘍性大腸炎の可能性があるため、必ず専門医に診てもらいましょう。
・潰瘍性大腸炎と診断されたら、しっかり治療を続けて、落ち着いた状態を維持することが大切です。症状がなくなっても自己判断で治療を中断することがないようにしましょう。
・大腸がんの早期発見のために、定期的に大腸カメラを受けましょう。
・病気をコントロールできれば、潰瘍性大腸炎に罹患していない人とほぼ同様の生活を送ることができて、寿命にも差がありません。