甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンが少ない)や甲腺機能亢進症(甲状腺ホルモンが多い)は、私が専門とする消化器疾患とは無縁のように思われるかもしれません。
まず甲状腺とは・・・
甲状腺は、のどぼとけの下にある臓器で、甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホルモンは新陳代謝を促進する働きがあるため、多すぎると体重減少、振戦(手指がふるえる)、動悸、暑がる、下痢などの症状が出ます。逆に少ないと、体重増加、浮腫み、徐脈、便秘などの症状が出ます。
便秘の有病率は1/4以上と言われていますが、その原因の一つとして甲状腺機能低下症が挙げられます。便秘も甲状腺機能低下症も加齢に伴い増える疾患のため、「ただの便秘」とされることが多いのが現実です。実際に「いわゆる便秘(機能性便秘)」のことが多いので、大腸カメラで「器質性便秘(大腸がんなど)」がなければ、下剤を処方されることが多いかと思います。
今回の記事の主題となっている甲状腺機能低下症は、便秘だけではなく、無気力、易疲労感、体重増加、浮腫みなどを伴うことがあり、便秘は甲状腺機能低下症の症状の一つです。便秘だけで甲状腺機能低下症を疑うことはありませんが、ほかの症状から甲状腺機能低下症を疑う場合は、甲状腺ホルモンを測定しています。治療は、甲状腺ホルモンを補充して、甲状腺ホルモンの正常化を図ります。
逆に甲状腺ホルモンが多いと、腸管の蠕動運動が活発になり、下痢を発症しやすくなります。4週間以上続く下痢は、慢性下痢症と診断されます。症状によりレントゲン、腹部超音波検査、大腸カメラを施行するとともに、症状(頻脈、振戦、体重減少など)によっては甲状腺ホルモンをチェックします。甲状腺機能亢進症に関しては、専門性が高いため、専門医に依頼しています。
下痢や便秘で医療機関(病院でもクリニックでも)を受診すると、レントゲンやCT、場合によっては大腸カメラをすすめられることがあり、それぞれ必要な検査です。
便秘や下痢を訴えて来院する方に、甲状腺疾患が見つかる頻度は決して高いわけではありません。しかし、ほかの症状がある場合は、必要に応じて採血で甲状腺ホルモンを測定することで解決する場合もあり、実際の経験を踏まえて記事にしました。