今回のテーマは、定期健康診断時に施行している「胃がんリスク検診(ABC検診)」と血清ヘリコバクター・ピロリ抗体検査(血清Hp抗体検査)についてです。
胃がんリスク検診(ABC検診)とは・・・
血液中の「ヘリコバクターピロリIgG抗体価(ピロリ菌感染の有無を調べる検査)」と「血中ペプシノゲン値(胃の 萎縮度を調べる検査)」を組み合わせて、胃がんのリスクを 4 段階(A・B・C・D)に分類する検査です。 胃がんを直接診断する検査ではありません。ABC検診で【B群】【C群】【D群】と判定された場合は、内視鏡検査を行い、ピロリ菌の除菌や、定期的な経過観察を行う必要があります。
ABC検診は、胃がんのリスク評価に有効ですが、一方でABC検診に適さない方もいます。それが以下の方です。
①ピロリ菌の除菌治療を受けた方
ピロリ菌に感染している人はもとより、ピロリ菌に感染していた方(除菌に成功した方)も、ある一定の胃がん発生のリスクがありますので、定期的に内視鏡による観察が必要になります。ABC検診を受ける意味がありません。
②明らかな上部消化器症状のある方
保険診療の対象になりますので、検診の適応ではありません。検診は自覚症状がない方が受ける検査です。
③上部消化管疾患治療中の方、プロトンポンプ阻害薬内服中の方、ステロイド投与・免疫抑制座愛投与中の方、胃切除後の方、腎不全の方
血清Hp抗体価に関して
血液でもピロリ菌の感染チェックをすることが出来ます。
ただし、検査の意義を理解していないと判断を誤る可能性がありますので、ちょっと難しい話になりますが説明します。
臨床診断の陰性基準は、『10U/ml未満』です。その目的は、現在ピロリ菌に感染しているか否かを見極めることにあり、陽性であれば治療適応になる可能性があります。以下の右のグラフを見て頂いたいのですが、10U/ml以上の場合は、95%近くが現感染ですので、血清Hp抗体検査は、それなりに信頼できる検査です。もちろん100%の検査はないので、内視鏡所見と合わせての判断になります。
ABC検診における陰性基準は、『3U/ml未満』になります。実は、2016年までは臨床診断と同じ『10U/ml未満』でした。しかし、以下の中央のグラフを見ていただくとわかりますが、3U/ml以上10U/ml未満の75%以上が既感染です。どうしてこの点にこだわるかというと、既感染はある一定の発がんのリスクがあるため、定期的な内視鏡検査を受ける必要があります。もともとピロリ菌がいない未感染とは全く異なります。
《血清Hp抗体陰性高値3~10U/ml未満におけるHp感染状態の検討》
日本胃がん予知・診断・治療研究機構:Gastro Health Now. 2016;増刊号:1-4.
繰り返しになりますが、ピロリ菌の感染状態により胃がんの罹りやすさが異なります。
【ピロリ菌未感染胃】
過去に一度もピロリ菌に感染したことがない胃で、将来胃がんが発生する可能性が極めて低いとされています。
【ピロリ菌現感染胃】
放置しておくと胃炎が進行して、将来胃がんが発生する可能性が未感染胃の15倍以上高くなります。
【ピロリ菌既感染胃】
①ピロリ菌除菌治療後で、現在ピロリ菌がいない胃
現感染と比較すると胃がん発生が約3分の1に低下しますが、胃がんの発生リスクがゼロではないので、毎年内視鏡検査を受ける必要があります。
②何らかの理由でピロリ菌が自然に消失した胃
例えば抗生剤を使用したときに、知らないうちに除菌されたなど。①と同様の状態です。
③ピロリ菌による胃粘膜の萎縮が進行してピロリ菌が住めなくなった胃
現感染よりも胃がんの発生率が高いとされています。毎年内視鏡検査を受ける必要があります。
~まとめ~
・ABC検診は、胃がんリスク(なりやすさ)を分類するものであって、胃がんの診断を診断する検査ではない。
・血清Hp抗体検査だけでは、既感染胃か未感染胃か判断しにくい場合があり、内視鏡検査を含め、総合的に判断する必要がある。